福岡高等裁判所 昭和57年(行コ)3号 判決 1987年1月29日
二号事件控訴人(被告) 北九州市病院局長
三号事件控訴人(原告) 福田節子 外七名
四号事件控訴人(原告) 竹中義雄 外六八名
二号事件被控訴人(原告) 赤木文造 外四名
三号事件被控訴人 四号事件被控訴人(被告) 北九州市病院局長
主文
昭和五七年(行コ)第二号事件について
原判決中、控訴人(第一審被告)敗訴の部分を取り消す。
被控訴人(第一審原告)らの請求を棄却する。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人(第一審原告)らの負担とする。
昭和五七年(行コ)第三号、同第四号事件について
本件控訴を棄却する。
控訴費用は、控訴人(第一審原告)らの負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 昭和五七年(行コ)第二号事件
1 控訴の趣旨(第一審被告)
主文同旨
2 控訴の趣旨に対する答弁(第一審原告ら)
(一) 本件控訴を棄却する。
(二) 控訴費用は控訴人(第一審被告)の負担とする。
二 昭和五七年(行コ)第三号、同第四号事件
1 控訴の趣旨(第一審原告ら)
(一) 原判決中、控訴人(第一審原告)ら敗訴の部分を取り消す。
(二) 被控訴人(第一審被告)が控訴人(第一審原告)らに対し、昭和四三年三月二九日付でなした地方公務員法二八条一項四号により同月三一日限り免職する旨の行政処分をいずれも取り消す。
(三) 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人(第一審被告)の負担とする。
2 控訴の趣旨に対する答弁(第一審被告)
主文同旨
第二当事者の主張及び証拠関係
当事者双方の主張は、次のとおり付加するほかは、原判決事実摘示のとおりであり、証拠の関係は、原審及び当審の記録中の各書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これらを引用する。
一 原判決三四枚目裏七行目の次に改行して、次のとおり加える。
「公務員関係の過員整理に伴う分限免職処分の要件及び効果は法定されており(地公法二八条一項四号)、右規定は、任命権者がこれ以外の場合に分限処分をすることはできないという意味で公務員の身分保障的機能を有するとともに、他方、国公法一条一項、地方自治法二条一四項、地方公営企業法三条等の規定の趣旨に照らせば、右要件が生じた場合任命権者に過員整理を命じているものと解すべきであり、任命権者が、廃職又は過員が生じているのになんら処分をせずに放置することは許されず、漫然従前どおりの人事配置を行えば違法な職務執行となるのである。第一審原告ら主張の如く、分限免職処分に労働基本権制約の代償措置としての機能を負わせる見解は、分限処分の制度目的を超えた解釈というべきである。」
二 同三五枚目裏五行目の次に改行して、次のとおり加える。
「原判決は『本件分限免職処分直後である昭和四三年四月一日付で市教育委員会において学校給食調理員八名が新規採用されており、これらの者が既に昭和四二年度の採用試験に合格し、採用候補者名簿に登載されていた者とはいえ、任命権者において必ずその時期に採用しなければならない義務があるわけではなく、本件分限免職処分当時においては、右八名について本件分限免職処分対象者を配置転換しうる余地があつたものということができる。』と認定し、本件分限免職処分は、右八名の限度において配置転換の義務を尽しておらず、裁量権の濫用があつたものとして違法との判断をなしている。
しかしながら、同一の市の組織であるとはいえ、独立の行政委員会として独自の人事権を有する市教育委員会において、学校給食調理員八名が本件分限免職処分後に新規採用されたからといつて、公営企業管理者である第一審被告が右八名に対応する員数の本件分限免職処分対象者を市教育委員会の学校給食調理員に配置転換する努力を怠つたということはできない。本件当時、北九州市が全市的に行財政の正常化に全力をあげて取り組み、特に人件費の抑制に努めていたこと、このため本件財政再建計画に伴う行政整理対象者の配置転換が全市的に非常に困難な事情にあつたこと、及び第一審被告がその配置転換を含む救済措置に最大限の努力をしたことはさきに述べたところであり、当時の情勢下において、第一審被告が最善の努力を行つたとしても、第一審原告赤木文造外四名について、これを配置転換しうる余地はなかつたのである。たしかに、市教育委員会は、昭和四二年度の採用試験に合格し、採用候補者名簿に登載されていた学校給食調理員八名をやむをえず一年遅れの昭和四三年四月一日に新規採用したけれども、昭和四四年九月一〇日に至るまでその後の新規採用はなしえなかつたものであり、教育委員会には本件分限免職処分対象者のうち、八名を配置転換させうる余地があつたとは到底いえない。また、市教育委員会への配転にあたつて、第一審被告である病院局長がなしうることは、市教育委員会に対する受け入れの要請と、市教育委員会による任命行為に対する同意のみであり、市教育委員会がこれを受け入れて発令するかどうかは、市教育委員会の専権に属し(地方教育行政の組織及び運営に関する法律三四条)、第一審被告の責任範囲にはない。加えて、病院局における調理士及び炊事員は、先に要請した九名を除くと九九名もいたことや、採用年次が昭和三九年以前の者で占められていたことなどに照らせば、第一審被告である病院局長が、市教育委員会に対し、新規採用の中止と右八名分の配置転換を要請しなかつたとしても、特段責められるべき点はない。さらに、公務員の過員整理は、運営合理化のため必要があるという立法上、行政上の決断が下されてはじめて開始され、その決断の全責任は議会、行政当局が負うものであり、違法な点がない限り、裁判所が容喙する余地はない。
以上のとおりであつて、市教育委員会において、本件分限免職処分直後に学校給食調理員八名が新規採用されたからといつて、本件分限免職処分当時において、右八名に対応する員数の本件分限免職処分対象者を配置転換しうる余地があつたとはいえなく、したがつて、本件分限免職処分は、右八名の限度において配置転換の努力を尽しておらず裁量権の濫用に当たるということもできない。」
理由
一 当事者及び本件分限免職処分の存在
請求原因1、2の事実は当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第五九号証によれば、第一審原告らの当時の年齢及び入職年月日は、原判決添付別紙職種等一覧表「年齢」欄及び「入職年月日」欄記載のとおり(但し、同一覧表中、6疋田君枝、49脇田アサヱ、72肘井嘉鶴子の各「入職年月日」欄に、それぞれ「34・5・23」「34・5・22」「33・1・1」とあるのを、右6については「34・5・22」と、右49については「35・5・22」と、右72については「32・1・1」と各改める。)であることが認められる。
二 本件分限免職処分に至る経緯
当裁判所も、次のとおり付加、訂正するほかは、北九州市行財政の状況、病院事業の推移と経営の状況、本件再建計画と分限免職処分の実施につき、原審と事実の認定を同じくするから、原判決理由中その説示(原判決理由二の1の(一)ないし(四)、2の(一)ないし(三)、3の(一)ないし(三))を引用する。
1 原判決四二枚目表一一行目の「第一七二号証の一、二、」の次に「第一七三号証、第一七五、第一七六号証、第一七七号証の一ないし五、」を、同四二枚目裏一行目の「乙第一五号証」の次に「及び第一五二号証」を、同五行目の「乙第七四号証」の次に「、第一五一、第一七四号証」を、同六行目の「認められ、」の次に「右認定に反する当審証人三輪俊和の証言部分は、前掲各証拠と対比し、たやすく措信できず、他に」を各加える。
2 同四三枚目裏五行目の「低かつた。」の次に「このため、市民生活に不可欠な事業を行なうことが困難となり、市民生活に密着した側溝や通学道路、買物道路の整備にもこと欠く状態であつた。」を、同四六枚目表三行目の「七名を」の次に「勤務評定の結果に基づき」を、同四行目の「分限免職処分に付した」の次に「(なお、残りの二名中一名は療養中であり、他の一名は前年に休職処分に付したばかりなので、分限免職処分を見送つた。)」を、同五行目の「改訂し、」の次に「その月額給料については」を、同末行の「拘束四三時間」の次に「(これは国や他の大都市の勤務時間に比して著しく短かく、また、市内主要事業所と対比しても短かいものであつた。)」を各加える。
3 同四七枚目表四行目の「第一五〇号証、」の次に「第一五二号証、」を加え、同六行目の「第一五〇号証」及び、同一一行目から一二行目にかけての「右乙第一五〇号証により真正に成立したものと認める乙第一五二号証、」を各削り、同四七枚目裏一行目の「第六三号証」の次に「、第一四号証」を加える。
4 同四八枚目裏一〇行目の「増嵩」を「累増」と、同四九枚目表二行目で引用の「別表2」(同一一四枚目裏)中の、昭和四一年度医業費用欄の「二三億三〇八八万円」を「二三億三〇八九万円」と、同四九枚目表五行目の「六億四五三〇万円」を「六億四五三一万円」と、同末行で引用の「別表4」(同一一五枚目表から同裏にかけて)中の、自治体病院全国平均(パーセント)欄について、流動負債構成比率の「一九・九」を「一九・九五」と、酸性試験比率の「八七・六」を「八七・六〇」と、また、医業利益対医業収益率の備考欄の「△に」を「△は」と各改める。
5 同五〇枚目裏八行目の「一五億六六〇〇万円」を「一五億五〇〇〇万円」と改め、同五一枚目裏四行目の「(もつとも、」から同六行目までの括弧書きを削り、同五二枚目裏六行目の「一九七五人」を「一九七六人」と、同六〇枚目表七行目の「定数規程を制定した。」を「北九州病院局職員職種別定数規程(昭和四三年北九州市病院局管理規程第二号、以下「定数規程」ともいう。)を制定した。」と、同六一枚目表三行目から四行目にかけての「一四億九〇一九万八〇〇〇円」を「一四億九〇一八万八〇〇〇円」と各改める。
三 本件分限免職処分の根拠
当裁判所も、次のとおり付加、訂正するほかは、本件分限免職処分の根拠、分限免職事由の存在、定数規程制定手続の瑕疵、処分時期の問題につき、原審と事実上並びに法律上の判断を同じくするから、原判決理由中その説示(原判決理由三の1ないし4)を引用する。
原判決六三枚目裏一〇行目の「したがつて、」を「右のように、」と、同一二行目の「できるのであるが、」を「できるのであるから、これに対応する内部組織への職員の配置も、管理者の権限にゆだねられているものと解すべきである。けだし、」と、同六四枚目表一行目の「とは到底解せられないから、」を「ものとすれば、行政組織及び人員配置の硬直化を招き、行政の機動的運営を著しく害する結果となるからである。したがつて、」と各改め、同一〇行目の「傾聴に値するけれども、」の次に「管理者が何ら合理的理由なく職制又は定数を改廃し、これに藉口して恣意的に職員を罷免するようなことがあるとすれば、管理者のかかる行為は、それ自体権限の濫用ないし裁量権の濫用にあたる行為として、違法たるを免れないのみならず、」を加え、同一二行目の「ための措置を講じたか否か、」を「ための措置(配置転換)が比較的容易であるにもかかわらず、これを考慮しないで直ちに分限免職処分に付したか否か、」と改める。
四 給食業務委託の適法性
当裁判所も、給食業務の委託、委託先の選定、委託契約の内容、その他の事情につき、原審と事実の認定を同じくするから、原判決理由中その説示(原判決理由四の1の(一)ないし(三))を引用し、これに基づく当裁判所の判断も、原判決理由四の2(給食業務委託の適法性についての判断)の説示と同一であるから、これを引用する。
五 配置転換努力義務懈怠の有無
1 配置転換と就職あつせん
当裁判所も、次のとおり付加、訂正するほかは、市当局の方針、配置転換、就職あつせんにつき、原審とその事実の認定を同じくするから、原判決理由中その説示(原判決理由五の1の(一)ないし(三))を引用する。
(一) 原判決八〇枚目表九行目から一〇行目にかけての「種々検討し、」から、同八〇枚目裏一行目までを、次のとおり改める。
「種々検討した結果、名簿登載の八名については、定数枠の中で他の職との調整さえつけば何とか消化できるのではないかという見通しのもとに、とりあえず、右八名に替えて病院局から要請のあつた九名を、小学校の新設と自然退職者を見込んで受け入れることとした。そこで昭和四二年一二月一九日、当時採用可能な四名分について人事委員会に選考委任の申請をするとともに、候補者名簿の消化責任の猶予について人事委員会の了解をとりつけ、昭和四三年一月一日付で教育委員会に学校給食調理員として転職を発令し、さらにその後、採用可能となつた四名分について、前同様、人事委員会の了解を得て、同年二月一日付で転職を発令し、結局、前記九名のうち、第一審原告藤岡サダ子を除く八名の炊事員が配置転換された。これに対し、組合側は、病院局からの右八名の配置転換に反対し、教育委員会に対して新規採用を行うよう抗議した。」
(二) 同八一枚目表三行目から同六行目までを削り、同八二枚目裏四行目の次に改行して、次のとおり加える。
「教育委員会が右八名を採用したのは、次のような経緯によるものであつた。すなわち、教育委員会では、昭和四三年六月一日を期する機構改革の見通しが立つた同年三月末に至り、昭和四三年度に採用する職員の計画が決定し、その中で名簿登載の八名についても採用の見通しが立つた。昭和四三年三月三一日当時、教育委員会においては、条例定数と現員との差は四三名あつたが、昭和四三年度に採用する職員の計画として、学校給食調理員を除き三一名の採用予定があり、残り一二名についても六名が復職予定であつたため、定数上、右名簿登載の八名以上の採用は不可能な状況であつた。しかし、右八名については、本来ならば昭和四三年三月三一日まで(名簿有効期間)に採用されるべき者であり、また、将来採用できる見通しも立たないことから、教育委員会としては、名簿の消化責任を果たす必要にせまられ、昭和四三年四月一日、急遽その採用に踏み切つた(ちなみに、教育委員会では、右八名の採用後は、翌四四年九月一〇日に至るまで、新規採用はなされていない。)。」
2 配置転換努力義務懈怠の有無についての判断
地公法二八条一項四号の規定による分限免職処分に基づく過員の整理のため、現実になにびとを免職するかは、任免権者がみずからの裁量によつて決定しうるものであるが、その決定にあたつては、同法一三条の定める平等取扱の原則、同法二七条一項の定める公正基準及び同法五六条の定める不利益取扱の禁止に違反してはならず、また、それが著しく客観的妥当性を欠き、明らかに条理に反するような場合には、自由裁量の限界を超えるものとして違法というべきである。
ところで、右分限免職処分は、同法二八条一項一号ないし三号の場合と異なり、職制もしくは定数の改廃又は予算の減少により廃職又は過員を生じた場合、被処分者にはなんら責められるべき事由がないにもかかわらず、任免権者が被処分者に対し、その意思に反して一方的に免職という不利益な処分をなしうるものであること、また、現行法制上地方公務員が住民全体の奉仕者であると同時に勤労者であることを考慮しても、そのことから直ちに任免権者において、分限免職処分を回避するための措置として、余剰人員の配置転換を命ずる義務があるとすることは、任免権者の人事権、経営権を制肘することを認めることになり妥当でなく、ただ、過員整理の必要性、目的に照らし、任免権者において被処分者の配置転換が比較的容易であるにもかかわらず、配置転換の努力を尽くさずに分限免職処分をした場合に、権利の濫用となるにすぎないものというべきである。
そこで本件において、被処分者の配置転換が比較的容易であり、本件分限免職処分が裁量権の濫用に当たるか否かについて検討するに、前記認定(原判決理由二の1、2)の事実によれば、病院事業経営上、本件人員整理の必要性、分限免職処分事由の存在が肯認されるところ、同一の普通地方公共団体内であつても、任命権者を異にする他部局への処分対象者の配置転換(転職、以下同じ)が問題となつている本件においては、処分対象者の属する任命権者の一存では到底配置転換をなしうるものではないから、普通地方公共団体の執行機関である当該任命権者において、任命権者を異にする他部局への処分対象者の配置転換につき、その普通地方公共団体の長の所轄の下に他の執行機関との間の相互の連絡調整を図り、普通地方公共団体の長及び他の執行機関がこれに協力したならば、任命権者を異にする他の部局への処分対象者の配置転換が比較的容易であつたという事情が認められなければならない。
これを本件についてみるに、前示のとおり、市当局は、本件再建計画立案の段階において、分限免職処分対象者の配置転換について検討し、機会あるごとに幹部会や局長会その他を利用して他部局の任命権者にその協力を求めたが、他部局においても類似の職種は殆んどなく、また、人件費の抑制に努力中であつてこれを受け入れることが容易ではなく、そして、職種変更による配置転換も実際上困難であつたことから、市当局において整理対象者全員を他の部局に配置転換することは到底不可能であると判断して、これを断念したこと、本件で整理の対象となつた者は、いずれも単純な労務に従事する者であり、その性質からして他部局への配置転換は困難な実情にあつたこと、わずかに教育委員会に学校給食調理員等類似の職種があつたものの、学校給食調理員については、教育委員会において既にその採用計画に基づいて、八名につき採用の手続を進めていたところ、病院局からのたつての要請を受け入れて、急遽八名の炊事員(昭和四三年一月一日付及び同年二月一日付で各四名ずつ)を教育委員会に学校給食調理員として採用したこと、このため採用を保留されることになつた名簿登載の八名については、教育委員会において、昭和四三年三月末に至り昭和四三年度職員採用計画が決定したことから、これに基づき、名簿消化の責任を果たす必要もあつて、昭和四三年四月一日に急遽、その採用に踏み切つたものであること、教育委員会では、昭和四三年度中は右八名のほかは学校給食調理員の採用計画はなく、翌昭和四四年九月一〇日に至るまでその後の採用はなされていないこと(このことから、分限免職処分対象者を転職させていたとすれば、名簿登載の八名については結果的に、その後の採用の機会を失したであろうことが容易に推認されること。)、以上のような事実関係が認められる本件のもとでは、本件分限免職処分対象者一七二名全員についてはもとより、昭和四三年四月一日付で教育委員会において学校給食調理員八名が新規採用されたからといつて、直ちにこれに対応する員数(八名)の本件分限免職処分対象者についても、教育委員会へ配置転換することが容易であつたということはできない。すなわち、独立の任命権者である教育委員会としては、前示事情のもとで右八名を新規採用したことには、それ相応の理由があるというべく、他方、仮に市当局ないし病院局から要請があつたとしても、教育委員会において、右八名に替えて分限免職処分対象者を優先的に配置転換(転職採用)することを強いられる筋合いはなく(地方自治法一三八条の三第二、三項等の規定による、いわゆる普通地方公共団体の長の調整権といえども、独立の行政委員会として独自の人事権を有する教育委員会が、その権限に基づいて行なう個々の職員の任命に関する事項には及ばないものと解する。)、また、整理対象者中八名を配置転換させるためには、これを特定することが必要であるところ、前示のとおり、市当局は、本件再建計画立案の段階において、幹部会その他で種々検討の結果、整理対象者全員を他部局に配置転換することは不可能であると判断してこれを断念したというのであるから、それ以降、病院局内部において、右八名についての選定基準も設定されていないことが容易に推認されるところであり、整理対象者中の八名については、これを特定するに由ないものといわざるをえない。固より、右選定基準を設定し、配置転換させるべき人員を特定することは、行政機関として、独自の人事権を有する第一審被告の裁量に属する事項であるから、裁判所がこれに代わり、独自に選定基準を設定し、整理対象者の中から八名を任意に選別、特定することが許されないことは多言を要しないところである。のみならず、前示のとおり、教育委員会において右八名を新規採用することが具体的に決定された時期は、昭和四三年度の職員採用計画が決定をみた同年三月末であつたというのであるから、当時は既に、分限免職処分予定日が目前に切迫している時期であり、分限免職処分予定日までの間に、整理対象者中八名について配置転換を実現することは、手続上も到底可能な状況ではなかつたことが窺われる。
もつとも、谷市長就任後の採用者九名のうち八名については、病院局から教育委員会への配置転換がなされていることは前認定のとおりであるが、右配置転換がなされた経緯については前示のとおり、教育委員会において、市当局や病院局に協力して、その要請を受け入れたことにより配置転換が実現したものであり、また、定数上もこれを受け入れる余地があつたこと、市当局や病院局からの右要請があつたときから、分限免職処分予定日までの間に配置転換の手続を完了することが可能な時間的余裕があつた等の諸事情のもとで、右配置転換がなされたものであつて、このことから直ちに、右と事情を異にする前記の、新規採用の八名に替える配置転換の場合においても、教育委員会へ配置転換させることが容易であつたと推認することはできない。
これを要するに、教育委員会において、本件分限免職処分後に学校給食調理員八名が新規採用されたからといつて、そのことから直ちに、本件分限免職処分対象者中不特定の八名を教育委員会へ配置転換することが容易であつたということはできず、他に右配置転換が容易であつたことを認めるに足りる証拠はない。
してみれば、本件分限免職処分は、右八名につき配置転換の努力を怠つた違法があるとして、裁量権の濫用に当たるものとはいえないし、また、その余の被処分者についても、同じく裁量権の濫用を認めるに足りる事情はない。
3 第一審原告藤岡サダ子に対する不当労働行為についての判断
第一審原告らは、谷市長就任後に採用された九名のうち、第一審原告藤岡サダ子のみを差別して配置転換の取扱をせず本件分限免職処分に付したのは、同第一審原告が活発な組合活動家であることを嫌悪したものであるから、労働組合法七条一号、地公法五六条で禁止する不当労働行為にあたるから、同第一審原告に対する本件分限免職処分は違法として取り消されるべきであると主張する。
しかしながら、第一審被告が第一審原告藤岡サダ子を他の八名とともに配置転換しなかつた経緯は、前記認定(原判決理由五の1の(二)の(2))のとおり、同第一審原告が昭和四二年一二月一五日の違法行為の指導責任を問われて、昭和四三年二月九日付をもつて停職五一日間の処分を受けたため、出向予定先(教育委員会)が、同第一審原告を受け入れず、このため、結局本件分限免職処分の対象となるに至つたというのであり、これによれば、同第一審原告に対する本件分限免職処分が、同第一審原告の組合活動を嫌悪し、これに対する報復措置としてなされたものとはいえないことが明らかであるから、第一審原告らの右主張は理由がない。
六 誠実団体交渉義務の履行
当裁判所も、団体交渉の経過、その細目としての、北九州市の職員団体及び労働組合の結成、病院事業再建表明後、本件再建計画案発表後、本件再建計画案の議決時、本件再建計画案議決後における各交渉経過、団体交渉内外の状況につき、原審とその事実の認定を同じくするから、原判決理由中その説示(原判決理由六の1の(一)ないし(六))を引用し、これに基づく当裁判所の判断も、原判決理由六の2の説示と同一(但し、原判決九五枚目裏一行目の「前記五2の冒頭で述べた」を削る。)であるから、これを引用する。
七 仲裁申請義務の有無
当裁判所も、原審とこの点についての判断を同じくするから、原判決理由中その説示(原判決理由七)を引用する。
八 裁量権の濫用
当裁判所も、次のとおり付加、訂正するほかは、原審とこの点についての判断を同じくするから、原判決理由中その説示(原判決理由八)を引用する。
1 原判決九七枚目裏二行目から同五行目の「そのような事情が認められないことは」までを「第一審原告らに対する本件分限免職処分をもつて、比較的容易であつた第一審原告らの配置転換を考慮することなくして、直ちになした裁量権濫用の違法があるということができないことは」と、同九八枚目表六行目から七行目にかけての「客観的にみて合理性を欠く」を「著しく客観的妥当性を欠き、明らかに条理に反する」と、各改める。
2 同九八枚目裏二行目から三行目にかけての「したがつて、」から同八行目の「ない。」までを、次のとおり改め、同九行目の「前記原告五名に」から、同一〇行目から一一行目にかけての「その余の原告らに関しては」までを削る。
「また、二六六名中から免職すべき少数の者を選択するのではなく、その大半を免職して、ごく僅少の残すべき者を選定する場合であることをも考慮すると、右八名とその余の整理対象者を区別して取り扱つたことをもつて、著しく客観的妥当性を欠き、明らかに条理に反するとか、地公法一三条、二七条一項に違反して本件分限免職処分を違法ならしめるものということはできないから、第一審原告らの右主張は理由がない。
以上のとおりであるほか、前記認定(二の1、2)の北九州市の財政状況、病院事業の経営状態からすれば、他に、本件分限免職処分が、地公法一三条、二七条一項に違反するか、もしくは著しく客観的妥当性を欠き、明らかに条理に違反してなされたものであることを肯認するに足りる事情は、これを認めることができない。」
九 結論
よつて、原判決中、昭和五七年(行コ)第二号事件被控訴人(第一審原告)らに関する部分は、当審とは結論を異にし失当であるから、右事件控訴人(第一審被告)の敗訴部分を取り消し、右事件被控訴人(第一審原告)らの本訴請求を棄却することとし、昭和五七年(行コ)第三号、同第四号事件控訴人(第一審原告)らに関する部分は相当であつて、右事件控訴人(第一審原告)らの本件控訴は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民訴法九五条、九六条、八九条、九三条を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 高石博良 石井義明 松村雅司)